その1

「蕉門正風の俳道に志しあらん人は、
世上の得失是非に迷わず
烏鷺馬鹿の言語にになづむべからず」

 私、芭蕉の考えまする俳諧の道を、なんとかものにしてやろうという風なことを、
考えてくださるってな方はね、
やっぱりねえ、こう、心の持ち方っていうんですかね
そういうものが、はじめでございますね

世の中の人はいろんなこと申します
あれが得だとか、あれがいいとか悪いとか
そんな話きいちゃあいけません
馬鹿がいってるんでございます。
そんなこと聞いて、ああか、こうか、なんて迷ってちゃぁあ始まらない


「天地を右にし、万物山川草木人倫の本情を忘れず、
飛花落葉に遊ぶべし」

 お天道様の下のものみんな、良く見ますとね
みんな持ちまわりで釣り合っておりましょう
よくできてるもんです、釣り合うって、これがね。

それぞれ、もって生まれた持ち前ってのがあるんですよ
山は山なり、落ち着いておりますしね、川はもうこれは低いほうへ流れるってのが持ち前
咲いたり枯れたり、生まれたり死んだり、
草や木だって、わたくしども人だって、そんなうちの一つってもんですよ、
それを忘れちゃいけません


「其姿に遊ぶ時は、道古今に通じ、不易の理を失わずして、流行の変に渡る。
しかる時は、志寛大にしてものに障らず。 けふの変化を自在にし、世上に和し、
人情に達すべし、と、翁申し給ひき」

 そんな心持で花がちらちらと散ってるのも、
秋にゃ紅葉がおちるのも見たいもんです
そういたしますとね
その心持こそが昔から申します、歌の道ってのにつながっているんでございますよ

この世の中、ほんとに変わらないものもございます
良いものは、いつの世もいいもので
また、変われど、変われど、その時々によいもの、はやりものもございますれば
毎日のお天気も折々の花や草もそうでございますな
このどっちもが、ああいいもんだって思えるんでごさいます、

こうなったら、もう、何も思案することはございません
心の中がひろーくなりましてね
気にするものがなくなってしまいます

春夏秋冬一日一日変わっていくもの
あたりのものじっくり味わい
世間の人やら、ご政道やら、おだやかに眺めさせていただいて
人の気持ちのあったかいものまでよおくわかるようになるんですよ
これがまあ始めでございますねぇ
翁は、ゆっくりと話された


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