笹 心太





漁船のエンジンの音が浅い眠りを破る。
開け放たれた窓から月の光と灯台の灯りが交錯する。
2001年8月1日、その日、私は小田原から明石へ引っ越して来た。

蛸壺やはかなき夢を夏の月

芭蕉がこの句を詠んだのはいつだったのだろう。
まだ積んだままのダンボールの箱から芭蕉句集を探す。

明石夜泊と前書 1688年 芭蕉45歳の夏。

芭蕉と漁師のこんな会話を、私は想像する。

「この壷で蛸を獲るのでございますか」
「夜、壷を沈めておくと、蛸は良き住処とこの壷に入り込むので
ございます。それを朝、引き上げるのでございます。」
「仮の住処が終(つい)の住処に・・・」

さてこの句、もう一度思いをめぐらしてみると

蛸壺やはかなき夢を夏の月

「や」で切れて「を」では、俗に言う三段切れにならないか、
(三段切れは求心力を失わせるとして嫌われる)

蛸壺やはかなき夢の夏の月

たしかに三段切れは回避できるが、上の句を見たあとでは、
なぜかか細く平板だ。
そうかこの「を」、連歌でいう付けの「うつり」なのだ。
うつりに三様がある。移り、写り、映り。
この「を」は映り。
はかなき夢と夏の月が互いに映えている。

明石、私にとって仮の住処なのか終りの住処なのか



蛸壺や夢無き夜の翁の句 心太

 

笹 心太 (Sasa Tokoroten)

プロフィール
顔を晒すより、もっと心太を理解していただくために
私の脳の輪切りから2コマ。2001/03/19 撮影

バカをやってないと落ち着かない男である。
My Webで、俳句、連句を楽しんでいる。
個人ページ  
http://sasa.org/

 

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