その4
「一、虚実に文章あり、無智弁あり、仁義礼智在り
虚に実あるを文章といひ、礼智といふ。
虚に実あるものは世に稀にして、また多かるべし。
此人をさして正風伝授の人とするとて、翁笑い玉ひき」
一、嘘とまことって申しますがね
嘘とまこと、ないまぜになっているもの、
理屈ではどうにもならぬものはたくさんございます
古い事柄や何か、本当のように文字で書かれたものがあるかとおもえば
仏の教えもいろいろ、これも理屈ではないと申しますな
孔子様は仁義礼智、これも形と心持、どちらが先とも
まことばかりが、世の中ってものでもございません
つくりごと、いはば嘘のなかに、人の心のまことがあるものを書や歌といい、
形のなかに、まことの心こめられたものを礼智ともうします
いづれも理屈ではうつろな嘘ごとといわれましょうが、
だがこの上なく良いものでございますな
人の世はやはり、嘘はうそ、嘘のなかにまことあるなんぞということは
少のうございます。がまた、すこし、こう、見方を変えますとな、
世間様には、嘘、絵空ごとといわれるもののなかにも
人の心や、草や木、生き物のまことの姿がよく見えているものも多いんでございますよ
この、絵空ごとのなかに、まことの姿を見せる、
これが私の俳諧を本当にわかってくださってるってひとじゃぁないかと思っております
ははは、すこうしお話が回りくどうございましたかな
「私(北枝)曰、虚に虚なるものとは、儒に荘子、釈に達磨なるべし」
ここでまかり出ました、あたくし北枝でございます
翁のお話を書留させていただいてるものでございます
いやあ、ここのお話はむつかしい
絵空ごととまことの姿、
このまことを見せている絵空ごと、
その中でも一番の絵空ごとは
孔子様のほうでは荘子、
仏様のほうではだるま大師なんてことになりますか
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